研究系及び研究施設の現状 83
米 満 賢 治(助教授)
A -1)専門領域:物性理論
A -2)研究課題:
a) 擬 1 次元有機導体の鎖間電子遷移から鎖内散乱過程へのフィードバック効果 b)擬 1 次元電子系の次元クロスオーバーに伴う一体及び二体相関関数の変化 c) 乱れた擬 1 次元電子系におけるモット絶縁体,アンダーソン局在,金属間の競合 d)低次元電子系の電荷秩序に依存した電荷励起及びスピン励起スペクトル
e) ハロゲン架橋複核金属錯体の電荷/格子秩序の配位子,ハロゲン,対イオン依存性 f) 多重安定な 1 次元電子系の秩序状態と時間発展
g)電界発光する伝導性ポリマーの発光の起原と電場依存性
A -3)研究活動の概略と主な成果
a) 擬1次元有機導体(T MT T F )2X ,(T MT S F )2X は圧力を加えたり,アニオンを変えたりすることによって,電子的な次 元性が変化し,1次元的なモット絶縁相から,1次元,2次元,3次元的な金属相へクロスオーバーすることが, 近年の実験から明らかになっている。これまで我々のグループは摂動論的繰り込み群を使って,低次元の側から 次元クロスオーバー,つまり1粒子及び2粒子のコヒーレンスの回復を調べてきた。本年は乱雑位相近似を使っ て,高次元の側からフェルミ面のネスティングによる磁気秩序の形成を調べた。実験で見られるように転移温度 がクロスオーバーの起こる付近で最大になることが再現された。これまでの摂動論的方法では鎖内プロセスが鎖 間プロセスからフィードバックを受ける効果が入っていない為に,電荷局在の起こる温度が次元性によらない結 果を出していた。これを改良する為,1 + ε次元という連続次元で基本的なダイアグラムを計算しなおし,次元性 があがると電荷局在が起こりにくくなるのを再現した。
b)擬1次元有機導体の次元クロスオーバーの問題は,上に述べたように摂動論的方法で詳細を再現することに限界 がみえてきた。そこで,数値的な方法の中で最も信頼性が高い密度行列繰り込み群を使って,有限系に対して一 体及び二体の相関関数が横方向のトランスファー積分や二量化とともにどう変化するかを計算した。電荷ギャッ プの振舞は実験で観測されているのと同様なものが得られた。横方向のホッピング相関(一体相関)は二量化に よる電荷ギャップがトランスファー積分と同程度以上になると急激に抑制されることがわかった。それと同時に スピン相関(二体相関)の横方向コヒーレンスも弱くなる。スピン密度波から反強磁性体への変化に対応すると 考えられる。一方,電荷相関(二体相関)はこれらの変化に鈍感で,むしろ次近接相互作用により敏感に変化す る。即ち,次近接斥力により4kFの成分が成長する。
c) 擬1次元πd 電子系 (DMe-DCNQI)2Li1–xCuxや(DI-DCNQI)2Ag1–xCuxは,x = 0 のときに外的な要因では二量化を持 たない 1/4 フィルドの1バンド電子系,x = 1 のときに 1/3 フィルドと 1/6 フィルドの2バンド電子系,x が増える とフィリングが変わり,C u のd 軌道を介して3次元性が増し,x = 0.5 付近で乱雑ポテンシャルの効果が最大とな る複雑な系である。電子相関に起因するモットの局在と乱雑さに起因するアンダーソン局在の競合問題はかつて 扱われたことがあった。ここでは,これらとフェルミ液体との競合問題を始めて調べた。摂動論的繰り込み群の 範囲で行い,電子格子相互作用は簡単の為に無視し,フィリングの変化はウムクラップ散乱の強さをパラメタで 振っている。xが小さいときにはウムクラップ散乱が強く,xとともに乱雑さが増し,反強磁性秩序をともなうモッ
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トの電荷局在相から,アンダーソン局在相へクロスオーバーする。一方,x が大きいときはウムクラップ散乱が弱 く,x とともに鎖間の重なり積分が増し,アンダーソン局在相から金属相へクロスオーバーする。
d) 擬2次元分子性導体の電子相を多様にするおもな原因は,κ-(BEDT-TTF)2X の場合は二量化による電子相関で,
(EtnMe4–nZ)[Pd(dmit)2]2の場合はトランスファー積分の異方性による次元性あるいはフラストレーションの効果で
あることを明らかにしてきた。一般に,低次元の分子性導体の絶縁機構としては,ウムクラップ散乱によるもの で,しばしばオンサイト斥力が強調されるモットの機構と,長距離相互作用が強調され,ウィグナー結晶との類 似性が指摘される電荷秩序の機構がある。κ-(BEDT-TTF)2X や (EtnMe4–nZ)[Pd(dmit)2]2など,二量化の強い系では 有効的にハーフフィリングになっているので,前者がおもな機構と考えられている。しかし二量化の弱い系でも しばしば絶縁化し,実際に電荷秩序が観測される。これらを励起スペクトルの形状の違いから区別する為に,乱 雑位相近似で光吸収スペクトルを計算し,それぞれのモードの起原を考察している。出発点として扱った1次元 のモデルでは,スピン密度波と電荷密度波が共存するか否かに依存したスペクトルが得られた。
e) 擬1次元ハロゲン架橋複核金属錯体(MMX鎖)には,金属イオン,ハロゲンイオン,配位子,対イオン,溶媒 に依存して,多様な混合原子価状態が現れる。配位子としてdtaを使った中性の白金ヨウ素系は室温以上で金属相, 低温でスピンパイエルス的な格子変位をともなう交互電荷分極相が観測されている。一方,対イオンが存在する, 配位子として pop を使った系は,白金塩素系や白金臭素系で電荷密度波型の格子変位が観測され,白金ヨウ素系 で対イオンに依存して,さらに平均原子価相,電荷分極相の存在が示唆されている。これらの相の発現に何が効 いているかを調べる為,1次元強相関電子格子系のモデルに平均場,厳密対角化,密度行列繰り込み群などを使っ て電子状態のパラメタ依存性を計算した。配位子による違いは,対イオンの有無による複核間弾性定数の違いと して理解できる。中性で対イオンのない dtaの系は複核間の距離が不均一になりやすく,非対角電子格子相互作用 により容易に交互電荷分極相が現れる。ハロゲンイオンによる違いはp軌道をとおしてd軌道間のトランスファー が大きく変化することで理解される。ヨウ素の系はp 軌道が d 軌道に近いので複核間の電子移動が容易になって いる。配位子とハロゲンイオンが同じ場合は対イオンにより複核間の距離が異なり,その為に対角電子格子相互 作用の強さが変わることが要因である。
f) 擬1次元電子系は対称性の異なる電子状態が多重安定になっている場合に光,圧力,温度などによって異なる電 子状態間を転移することがある。特に光照射によって誘起される相転移は,中間状態として高励起状態を経るこ とで他にない相転移がありえる点と,ソリトンやドメイン壁の動力学が電子間,電子格子間の相互作用の競合を 反映する点で興味が持たれている。特に励起波長依存性や照射エネルギーに対する非線型な振舞がまだよくわかっ ていない。この問題に対する為に,今まではあまり取り入れられなかった非断熱効果をフルにとりいれた多電子 の時間発展を調べようとしている。その前段階として,まず静的な電子状態が電子間,電子格子間の相互作用に どう依存しているかを,平均場近似でみている。
g) 電界発光する伝導性ポリマーは非線型励起と光物性,L E D などへの応用の観点で興味が持たれている。電界発光 に効く非線型励起状態として励起子とポーラロンが考えられるが,これらは一般にそれぞれに特徴的な局在モー ドの違いによって実験的に区別することが可能である。それぞれの非線型励起状態での局在モードの波数を計算 すると,赤外活性モードでは違いが大きく出ないが,ラマン活性モードで大きな差があることがわかった。電界 発光するポリマー m-L PPP では電場が強いと発光が抑制されることが知られている。計算すると,これは本来中 性の励起子が弱い電場のもとで分極し,強い電場のもとでは正負の荷電ポーラロンに分離する為と結論される。ポ リマーの配向の乱雑さを考慮すると実験で観測されるような発光の電場依存性が再現された。
研究系及び研究施設の現状 85 B -1)学術論文
K. YONEMITSU, J. ZHONG and H.-B. SCHÜTTLER, “Berry Phases and Pairing Symmetry in Holstein-Hubbard Polaron Systems,” Phys. Rev. B 59, 1444-1467 (1999).
L. LI, R. L. FU, X. SUN and K. YONEMITSU, “Electric-Field Response of Exciton in Electroluminescent Polymer,” Phys. Status Solidi B 214, 337-342 (1999).
J. KISHINE and K. YONEMITSU, “Anisotropic Renormalization-Group Flow of Quasiparticle Weight in a Two-Dimensional Electron System with a Partially Flat Fermi Surface,” Phys. Rev. B 59, 14823-14826 (1999).
J. KISHINE and K. YONEMITSU, “Spin-Density-Wave Phase Transitions in Quasi-One-Dimensional Dimerized Quarter- Filled Organic Conductors,” J. Phys. Soc. Jpn. 68, 2790-2801 (1999).
Y. IMAMURA, S. TEN-NO, K. YONEMITSU and Y. TANIMURA, “Structures and Electronic Phases of the Bis(ethylene- dithio)tetrathiafulvalene (BEDT-TTF) Clusters and κ-(BEDT-TTF) Salts: A Theoretical Study Based on Ab initio Molecular Orbital Methods,” J. Chem. Phys. 111, 5986-5994 (1999).
H. JIANG, X. H. XU, X. SUN and K. YONEMITSU, “Localized Vibrational Modes of Excitation in Electroluminescent Polymers,” Chin. Phys. Lett. 16, 836-837 (1999).
B -2) 国際会議のプロシーディングス
J. KISHINE and K. YONEMITSU, “Effects of Dimerization and Interchain One-Particle Hopping in a Weakly Coupled Dimerized Chain System at Quarter Filling,” Synth. Met. 103, 1833-1834 (1999).
M. MORI, K. YONEMITSU and H. KINO, “Possible Magnetic Phases in Two-Band Systems with Different Dimensionality,” Synth. Met. 103, 1883-1884 (1999).
T. OGAWA and K. YONEMITSU, “Conductivity and Magnetic Properties of One-Dimensional Heisenberg-Kondo Lattice,” Synth. Met. 103, 2149-2150 (1999).
K. YONEMITSU, “Renormalization-Group Study of Competition between Density Waves and Pairing in Quasi-One- Dimensional Electron Systems,” Synth. Met. 103, 2216-2217 (1999).
M. OGATA, N. KOBAYASHI and K. YONEMITSU, “Coexistence of SDW and Purely-Electronic CDW in Quarter-Filled Organic Conductors,” Synth. Met. 103, 2242-2243 (1999).
X. H. XU, R. T. FU, X. SUN and K. YONEMITSU, “A Correlated-Basis-Function Study of SDW in Polymers,” Synth. Met. 103, 2337-2338 (1999).
J. KISHINE and K. YONEMITSU, “Geometry, Universality and Dimensional Crossovers in Weakly-Coupled One- Dimensional Conductors,” Synth. Met. 103, 2650 (1999).
B -4) 招待講演
岸根順一郎 , 「擬1次元電子系におけるインコヒーレント金属状態からの相転移∼ T M 系のスピン密度波転移を 中心にして∼」, 東大駒場物性セミナー , 東京大学 , 1999 年 2 月 .
岸根順一郎 , 「擬1次元伝導体∼量子揺らぎと次元性が引き起こす相転移とクロスオーバー∼」, 東大物工鹿野田 研セミナー , 東京大学 , 1999 年 4 月 .
岸根順一郎、米満賢治 , 「擬1次元電子系の量子揺らぎと次元性が引き起こす相転移とクロスオーバー」, 物性研
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短期研究会「強相関電子系としての分子性導体」, 東京大学 , 1999 年 5 月 .
岸根順一郎 , 「低次元電子系における相関と乱れと次元性のインタープレイ」, 超伝導若手の学校 , 浜松市 , 1999 年 7 月 .
岸根順一郎 , 「スピンギャップと電荷ギャップ」, 有機固体若手の学校 , 淡路島 , 1999 年 7 月 .
米満賢治 , 「二量化した低次元導体の電子相関―Pd(dmit)2 塩と MMX鎖を中心として―」, 日本物理学会 1999 年 秋の分科会特別講演 , 岩手大学 , 1999 年 9 月 .
米満賢治 , 「擬1次元電子系における電子相関と乱れの効果―D C NQI 塩を中心に―」, 物理学科コロキウム , 東 邦大学 , 1999 年 11 月 .
K. YONEMITSU, “Electronic Phases in Strongly-Dimerized Low-Dimensional Conductors —Pd(dmit)2 Salts and MMX Chains—,” International Workshop on Control of Conduction Mechanism in Organic Conductors (ConCOM'99), Hachioji (Japan), November 1999.
米満賢治 , 「擬1次元電子系における次元性と電子相関による次元クロスオーバー」, 応用物理学科コロキウム , 大阪市立大学 , 1999 年 12 月 .
米満賢治 , 「擬1次元電子系における次元性,ギャップ,局在と電子状態」, 応用物理学教室談話会 , 名古屋大学 , 1999 年 12 月 .
B -6) 学会および社会的活動 学協会役員、委員
日本物理学会名古屋支部委員(1996-1997, 1998-). 学術雑誌編集委員
「日本物理学会誌」編集委員(1998-1999).
B -7) 他大学での講義,客員
大坂市立大学工学部 , 「特別講義 III:低次元有機導体の物性理論」, 1999 年 12 月 7 日− 8 日 . 名古屋大学大学院工学研究科 , 「低次元分子性導体の物性理論」, 1999 年 12 月 13 日− 15 日 .
C ) 研究活動の課題と展望
電子的に低次元な物質は多様な電子状態を示し,個々を記述することは比較的容易であっても,その全体像を整 理することは容易でない。有機導体の場合はπ電子が物性の主な担い手なので,バンド描像から出発して概要を 押さえ易い。しかし,d 電子が活躍する金属錯体では必ずしもそうでない。物性を左右するパラメタがあまりにも 多いことがよくあるからである。最近はπ電子系でも様々な電荷秩序が報告され,一筋縄でいかなくなってきて いる。低温で電子状態の対称性が高温と比べてどう低下するかといった,静的な情報からはあまり多くのことが 導けない。今後は動的な情報,つまりスピン,電荷,格子それぞれのチャンネルの励起スペクトルにみられる次 元性や電子相関の効果を的確に記述することが必要である。さらに,光照射など外場を加えたあとでの時間変化, つまり非線型励起状態の動力学と多電子の協力現象の絡み合いといった非平衡系での物性が面白いテーマとなる と考えている。そういった意味で,絶縁体間転移により自発的に電荷が分極する系として,交互積層型の電荷移 動錯体やハロゲン架橋複核金属錯体の最近の実験に大きな興味を持っている。